2010年06月10日

700年前の政権交代に思う(産経新聞)

【土・日曜日に書く】

 ≪現実忘れた政治の末路≫

 いまから約700年前に、日本史の画期ともなった「政権交代」があった。後醍醐天皇による鎌倉幕府の打倒である。

 元弘3(1333)年、隠岐に配流中の天皇はひそかに島を抜け出た。皇子の大塔宮護良(おおとうのみやもりよし)親王や楠木正成、赤松円心らが各地で蜂起する。実力者の足利尊氏まで反旗を翻し、鎌倉幕府は約150年にわたる歴史の幕を閉じた。

 後醍醐天皇が始めた政治は、年号から「建武の新政」と呼ばれる。「朕(ちん)が新儀(しんぎ)は未来の先例たるべし」(私が始める新しいやり方が、後世の規範となる)の言葉の通り気概はあふれていたが、実際は天皇による時代錯誤な独裁でしかなかった。

 このような政権など長続きするはずもない。新政を歓迎していた武士や農民たちが失望し、公家ですら「物狂の沙汰(さた)」(後愚昧記(ごくまいき))と、さじを投げた。2年後には、足利尊氏が政権打倒のリーダーとして名乗りを上げる。

 新政を批判した著名な史料として、「二条河原の落書(らくしょ)」がある。「このごろ都にはやるもの。夜討強盗、謀綸旨(にせりんじ)」で始まる一文である。内裏に近い二条河原に張り出されたこの落書は、「治安が悪くなる一方で、恩賞は不公平。みんな平気でうそをつき、成り上がり者ばかりが幅を利かせている」などと、当時の社会の混乱を生々しく描き出している。

 新政は末期的な症状を呈していた。にもかかわらず後醍醐天皇は有効な手を打てず、尊氏率いる軍勢の前に、正成らの忠臣を次々と失ってしまう。最後はわずかな側近とともに、吉野山へ逃げ込むしかなかった。

 ≪しぼむ「新政」への幻想≫

 さて、ここからは現代(いま)の話である。昨年9月、衆望を担って誕生したはずの鳩山由紀夫内閣は、普天間飛行場の移設と「政治とカネ」をめぐる問題の責任を取るとして退陣した。後継首相には菅直人副総理・財務相が決まった。

 彼らが声高に叫んだ政権交代とは、いったい何だったのだろう。民主党を中心とした連立政権が始めた「新しい政治」なるものの内実は、旧政権の政策をすべて否定し、財源の見通しもないままカネをばらまき国民の歓心を買おうとしただけではなかったか。

 喝采(かっさい)をもって迎え入れた人々もしだいに、「新しい政治」が幻想に終わりそうなことを察知し始めた。失望のあらわれは10%台の内閣支持率である。

 このままでは、7月に迫った参院選で惨敗し、政権の運営も厳しくなる。鳩山首相と小沢一郎民主党幹事長は大いに焦り、2人そろって職を辞することとした。それが、今回の「小鳩同時退陣」の脚本なのだろう。

 派手な退任劇によって、「今度こそクリーンで新しい民主党に生まれ変わった」と印象づける狙いだが、有権者も簡単にはだまされまい。与党政治家の多くは国民全体の安全や幸福など真剣に考えてはおらず、一部の利益や特定のイデオロギー実現のために働いていると見透かされているからだ。

 ≪「退廃」の腐臭を感じる≫

 「新しい政治」は、いつも待望される。自民党政権は過去の実績にすがるだけで時代に合致した改革が求められていることを忘れ、国民の信頼を失ってしまった。戦後初の本格的政権交代にも、それなりの理由はあった。

 しかし、政権交代の主役たちの志操は低かったというしかない。最高権力者である小沢幹事長の威光を恐れ、「政治とカネ」の問題にも、批判は出なかった。「民主党」を名乗りながら、党内民主主義すらなかったのである。

 口蹄(こうてい)疫の感染拡大に対する対応の鈍感さや、郵政改革法案をごり押しして恥じないさまなどにいたっては、見苦しいばかりである。政権を取ったおごりを通り越し、すでに退廃が始まった腐臭を感じてしまう。

 後醍醐天皇の新政は、わずか3年半で崩壊した。700年後に産声をあげた新政も、まだ8カ月余りではあるが大きく傾きかけている。民主党への支持率は盛り返しているようだが、といって国民がすべてを帳消しにし、ふたたび高い期待を寄せるとはとても思えないのである。

 この混迷を救うキーワードがあるとすれば、「公の精神の回復」だと筆者は考えている。ひとりよがりの「友愛」などでは決してない。私利私欲を離れ、真にこの国を立て直す勇気と行動力に基づいた「新しい政治」こそが、待ち望まれている。(論説副委員長・渡部裕明)

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posted by ムライシ マサヒロ at 10:25| Comment(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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